お参り

Gさんは財布や携帯をよくどこかに忘れてきてしまうらしい。友人Kに相談したところ、天神さまにお参りするがいいと言う。わたしはお参りにいくことにした。ひとりはさびしいと思いKも誘ったが、Kは用事がある用事があると執拗に断るので、わたしはしかたなくKを台車に乗せた。

天神さままではバスで行った。Kは台車に乗せられたあとしばらくゆらゆらゆれていたが、バスを待っている間、歌いながらわたしのわき腹を何度もつつくので困ってしまった。100回まではがまんしたが、だんだんいやになってきてやめてと頼むとKは「バスが来たらやめる」と言い、わたしはしぶしぶ了承した。それから30分してバスが来た。バスの中で服をまくってわき腹を見ると、つつかれたところが少し赤くなっていた。わたしがにらむとKはふふふと笑った。赤くなった模様がなんとなく猫に見えたので、わたしもつられてふふふと笑った。Kにはそういうところがある。

天神さままでの道はお祭りの準備でにぎやかだった。入り口の鳥居のそばにジンジャーエール売りのおじさんがいて、わたしとKは瓶のジンジャーエールを買った。瓶には『元祖ジンジャーエール』と書いてあったが、おじさんは「本当は元祖じゃないんだ。黙っていておくれ」とこっそり教えてくれた。わたしがジンジャーエールを飲みながら「おじさんが黙っていればばれなかったのに」と言うと、Kは飲み終わったジンジャーエールの瓶をなでながら「これは普通のより甘いから本当の元祖ジンジャーエールかもしれない」と言った。わたしはどちらが本当かわからなかった。

本堂のわきのお店に失せ物のお札があったのでそれを買うことにした。Kはわたしよりたくさん買った。このお札はまだなくしてないものにも効き目があるのだろうか。2人で神社の作法を無視してめいめい好き勝手にお祈りしたあと、またバスに乗って帰った。バスの運転手が行きと同じ人だったので、わたしが軽く会釈をしたら運転手も会釈をして他のお客も会釈をしてKは会釈をしなかった。少しおもしろかった。