アラスカ日記4

お腹がいっぱいになった頃、おじいさんがおしっこをしにいくと言うので自分もついていきました。人目に付かないところでおしっこをするのがアラスカ流だそうです。意外なところでアラスカと日本の共通点を見つけました。背中合わせでおしっこをしていると、おじいさんが遠くに鐘の音が聞こえたと言い出しました。自分はおしっこに夢中でその音が聞こえなかったのですが、いままで何度もおじいさんに助けられているのでおじいさんの言葉を信じることにしました。おじいさんのおしっこがなかなか終わらないので、自分はそれを待たずに鐘の音がするというほうへ向かうことにしました。少し歩くと自分にもその音が聞こえてきます。自分はゴーンという日本の鐘を想像していたのですが、聞こえてきた音はガラーンゴローンという西洋の鐘の音でした。

気付くとおじいさんが横に並んで歩いていて、これはひょっとしたら結婚式かもしれないと言いました。目を凝らすと遠くに建物が見えました。おじいさんは急に身をかがめて早足になりました。自分も早足で追いつこうとすると、おじいさんはそれよりもお米を早くと言いました。その顔があまりにも真剣だったので自分は無言で頷きお米を取りに戻りました。どれだけ食べるのかわからなかったので、とりあえず両手にお米を握り締めておじいさんのところへ急ぎました。おじいさんは教会の茂みの近くで様子を伺っていました。おじいさんの言うとおり教会では結婚式が行われていたようです。自分は持ってきたお米の半分をおじいさんに渡しました。おじいさんは、よしと言いました。教会らしき建物の外には十数人の人間がいました。自分は初めてアラスカ人を見たので少し緊張していました。アラスカ人はみんなきちんとした身なりをしていて自分の服装が気になりました。もしかしたら結婚式に出られないかもしれないとまで考えました。しかし、そんな心配は杞憂だったようです。おじいさんはアラスカ人たちに向かって持っていたお米を力いっぱい投げつけました。おじいさんは大声で自分の知らない言葉を喋りました。アラスカ人たちもこちらに気付いたようでした。するとアラスカ人の女の子がこちらに向かって歩いてきて、おじいさんにビンを手渡しました。おじいさんはありがとうと言い、女の子はどういたしましてと言いました。

再び歩き始めたとき、おじいさんにさっきのはなんだったのか尋ねてみました。おじいさんはアラスカには結婚式のときに祝福としてお米を投げる風習があると言いました。それで自分たちは日本人だが飲み物を少しを分けてくれないかと言ったそうです。自分は少し腑に落ちないところがありましたが、結果的に飲み物がもらえたのでおじいさんに感謝しました。自分はおしっこをした後、手を洗わないで米俵に手を突っ込んだことに気付きましたが、おじいさんには何も言いませんでした。おじいさんとは対等な関係でいたいのです。